大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

広島高等裁判所岡山支部 昭和31年(う)226号 判決

論旨は要するに、原判決は原判示第二の(一)(二)について被告人姜に錯誤のあつたことを看過している違法があり、その錯誤は犯罪の成否にかかるものである。即ち同被告人の右所為はその失つた自己の米を取返えす正当な権利があるものと信じてなした権利行使であつて、恐喝とはならないのであり、仮にその取返えす正当な権利がなかつたのであるならば、同被告人に錯誤のあつたことが認められるのであり、この点について原判決は審理不尽ないし理由不備の違法をおかしているというのである。よつてこの点について検討するに、原判決挙示の関係証拠によると、被告人姜は被告人木村等に対しその所有にかかる原判示の玄米約七石六斗を大阪に向け輸送の委託をなし、同人等にこれを引渡したところ、右木村等がその輸送の途中岡山市内において無断で該玄米を売却したことを探知し、その損害を回復するために、原判示のような脅迫等の行為をなし、因つて原判示の各金員の交付を受け又はその支払を約束させたことを認めることができる。しかし木村等が本件闇米を処分したことはいわゆる無権利者の処分行為であり、これを買受けた金田佐太郎等は平穏且つ公然に占有を始めたものとはいえないから、その所有権を取得するいわれはなく、一応同被告人が所有権を有するものと認むべきであつて、同被告人がこれを取り返えすについて正当な権利を有するものというべきである。従つて同被告人が右米の返還若しくはこれに代る損害を請求することは正当な権利行使というべく、たとえ同被告人において真にその権利を有しなかつたとしても、かかる場合において社会通念上これを有するものと信ずるにつき正当な事由があるものと認められるので、喝取の犯意は認められないから、その脅迫等の手段の違法であることはともかくとして、恐喝罪は構成しない。従つてこの点について原判決が恐喝罪に問擬したのは事実誤認の違法をおかしたものであつて、その結果判決に影響を及ぼすことが明かであるから、被告人姜に対する原判決はこの点について破棄を免れない。論旨は理由がある。

よつて被告人姜に対するその他の論旨に対する判断を省略し、刑事訴訟法第三九六条により被告人木村和彦の本件控訴を棄却し、」同法第三九七条第三八二条により被告人姜正会に対する原判決を破棄し、同法第四〇〇条但書に従い更に判決する。

罪となるべき事実及び前科

被告人姜正会は

第一、李某と共謀の上、その所有にかかる粳玄米糯玄米等約七石六斗を大阪に輸送して同地において売却しようと企て、昭和二十九年五月初旬、倉敷市北浜町の居宅において、倉敷通運株式会社の貨物自動車運転手木村和彦に対しその輸送方を依頼し、その頃小田郡矢掛町大字横谷三〇九八番地津尾晴俊方において右木村及び同人の意を受け自動車の運転に従事する三谷明の両名に対し、右玄米を引渡し、もつてその輸送の委託をなし

第二、右のように委託を受けた木村和彦、三谷明が該玄米を大阪に輪送の途中、これを岡山市内において無断で売却したことを探知するや、その損害を回復しようと企て

(一)(1)同年五月十一日頃岡山市内田西本町一六四番地南部忠次方において、右玄米の買受人である植田順太郞、板野章通、木村から依頼せられて一時右玄米を預つていた南部忠次等に対し「わしは中筋の福田だが、木村がお前達に売つたあの米は、木村がわしの米を盗んで来たものだ、十九俵盗まれているから弁償してくれ」とか、「おれには子分が二、三十人いる、今日も若い者が二、三人附いて来るといつたのをコーヒー一杯で撒いて来た、若い者が来たらただではすまん」とか、「弁償しなければ警察につき出すぞ」等と申し向けて、その身体等に危害を加うべき旨をもつて同人等を脅迫し

(2)更に同日同所において前記南部忠次に対し「米が足りない、お前が隠しているだろう、不足分はお前が出せ」等といつて同人の頭部を手拳で数回殴打して暴行をなし

(二)翌十二日頃前記粳玄米の一部を買受けていた同市大供六〇番地金田佐太郞方において、同人に対し「わしは中筋の福田だが、若い者が大勢いる、お前は米を買つているだろう、それはわしが買つておいたものを木村が偽つて取り出して来たものだ、現物か金かどちらか返えしてくれ、柔順に出さなければ出るところに出る」等と申し向けて、同人をして被告人が岡山市中筋の親分福田某の身内の者で、若しその要求に応じないときは、その身体等に危害を加うべき旨をもつて同人を脅迫し

たものである。

(裁判長判事 有地平三 判事 宮本誉志男 判事 浅野猛人)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!